2021年06月30日
折り返し点
久々に立ち寄った書店で偶然目に入った「太平洋ひとりぼっち」
映画にもなった有名な堀江謙一青年(当時)の歴史的名著です。改訂版の新書で初刷りは2004年、それが今こうして目の前にあるのは奇跡なんだろうな、と思ってレジに向かいました。
出港までの経緯は後回しにして,銀座線の車中で早速、西宮ハーバー出港のくだりから読み始める。最初からいきなり無風状態!大阪湾に何時まで留まることになるのか?
ようやく伊豆周辺までたどり着いた、とはいっても無断出国の身。いつ捕まって連れ戻されるかと不安な上、近づいてくる漁船に怪しまれないよう、そのたびに船首を関東に向けるポーズをとる・・・・・小型ヨットで海外渡航なんて前例が無かったあの頃、合法的な出国の方法が存在しなかった時代の話
GPSもVHF無線機もイリジウム電話も無い1960年代の単独航海。現在地を知るのは六分儀とコンパス、それに日本時間のままの腕時計だけ。気象通報が入るラジオ(中波と短波)それに高価なRDF(無線方向指示器)だけが正確な位置のヒントになる。
21世紀の装備群を考えたら果てしなくアナログな時代に舵取り棒をゴムひもで支え,セールのバタ付き音を目覚し代りに仮眠を取る・・・・単独航海なので、見張りもフルタイムは出来ない。何より孤独と恐怖とどう付き合っていくか・・・・・
堀江さんが太平洋上で,たった一人自分を励ますために様々な言葉や思考を編み出したさまは、ある種哲学とでも呼びたくなるもので、自ら一人二役の対話を声に出して実践してみるなど、究極の引きこもり術ともいえる暮らしぶりが垣間見えてきます。
そんな自分を慰めるうち,早くもマーメイド二世号の構想も浮かんできます。これは後に世界最小クラスの太平洋横断艇として実現しています。
ホンダがF1に初参戦するよりずっと前,まだS600しか乗用車を売っていなかった時代にこんなにもチャレンジングな冒険を実践していた日本人がいたなんて!
本の帯には「挑戦」を忘れたニッポン人へ、と記されています。文中には当時の貴重な記録写真も多数含まれており、過酷な航海の一片を伺うことが出来そうです。
もうすぐ1年も折り返し点、正確には来月3日のお昼頃が182日と半分にあたりますが、他方で太平洋無寄港単独横断に成功したばかりの辛坊次郎さん操るkaorin五世号、サンディエゴは折り返し点に過ぎず現在は北回帰線を跨いでハワイ方面へまっしぐら。小笠原付近まではこのまま高気圧からの追い風と赤道反流に助けられてスムーズな航海を続けられそう。ハワイ最接近まであと10日前後と予想されます。