2022年07月27日
銭形平次傑作選
TVシリーズでもおなじみ銭形平次。これまで幾人もの人気俳優が演じてきたほか、活字媒体でも文庫化されロングセラーとなっています。
今回初めて手に取った傑作選①仇討ち編にはエピソードゼロともいうべき、銭形平次の最初の活躍と嫁になる人物との馴初めが描かれています。痛快な謎解きとその行動力、問題解決能力のスマートさは読んでいて小気味の良いもの。これが戦前にオール読物創刊に際して掲載され始めたのもうなずける出来栄え、というか時代を感じさせない新鮮さに圧倒されました。
著したのは作家の野村胡堂、岩手出身の作家・元報知新聞記者でした。宮沢賢治の生まれた花巻と石川啄木の暮らした渋民村の大体、中間点が県都盛岡市。そのベッドタウン的な存在になりつつあるのが隣接する紫波町で、ここに野村胡堂が生まれ育ちました。花巻空港と盛岡の大体中間あたり、胡堂が育ったころは辺り一面水田か蕎麦畑か麦畑かなにかだったと想像されます。
近所の公園に赴けばウサギやタヌキを見かけることも容易で、テントサイトを見つけるのも容易い土地柄です。
平次のネーミングは平民の次男坊から。今風に言えばヒラのコップが難事件を次々解決する様なものであって、元の将軍が身分を隠して漫遊する水戸黄門とは対極のヒーロー像を描いています。
平民の岡っ引には名字はありません。銭形の由来は社屋の窓から見えていた銭形組の工事用のシートだったとか。相棒の八五郎のおっちょこちょいぶりはどこかうっかり八兵衛に似てなくもありません。
故郷紫波町には岡っ引きや江戸風情のヒントになるような題材は無さそうなので、胡堂が東京に住み始めてから構想を練ったものなのでしょう。賢司や啄木と比べて知名度に差があるのもちょっと歯がゆい思いがするほど、優れた作品を残した功績はもっと評価されてもおかしくは無いのでは?と思います!
すらすらと読み進んでしまうテンポとストーリー展開が今日も愛され続ける秘密なのだな!と納得のクオリティです。