2020年04月18日

黄金列車

007シリーズの初期にも登場したオリエント急行を始め、欧州を縦横に走る国際列車には心惹かれるものがあります。とはいえこれが小説の舞台となる作品を探し出すのは至難の技。しかも翻訳ものじゃ無くて日本の作家となるとなおのこと・・・・

第二次大戦当時、まだ枢軸国側にあったハンガリーからユダヤ人の募集財産を満載した長大編成の貨物列車を西に向けて走らせるのが、小説「黄金列車」。主人公は勿論この列車そのものです。無論、盗賊からは目をつけられ連合国側からの爆撃も気にしなければならない。列車の運行管理を任された中間管理職の男;バログは、この戦禍で大切な妻を失い、官僚の意向と現場の板挟みになって、やりようのない気持ちを抱えながら列車の安全運行に腐心するのだった・・・。

Image_20200420171501黄金列車はハンガリーを出発した長大な貨物車両と高級官僚を載せた客車に食堂車。レールの上を走る汽車ゆえに、その運行も思うに任せない。機関車の手配は?運転士は?運行計画は承認されるのか?

目の前の過酷な現実と、妻と知り合い家庭を持つに至る幸福な時間の記憶が脳裏で交錯する・・・・サスペンスタッチな歴史小説です。

翻訳小説か?と思うばかりの佐藤亜紀の書き下ろし作品は実在の人物や史実も随所に登場する本格派の時代考証や細かなディテールの描写はコレホントに翻訳小説じゃあないの?と思わせる完成度の高さ。

Twitterの文学賞を受賞した注目作「黄金列車」は映画ジョジョラビットの時代とも重なり、終戦目前の雰囲気をリアルに、色鮮やかに再現してくれています。

| 15:08 | コメント(0) | カテゴリー:吉田雅彦

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