2015年03月26日
バイ/ワイアの世界1
今回の事故ではエアバスA320の構造や機体に依存する墜落理由ではないことが徐々にはっきりして来ました。ある意味安心しましたが、人間管理という難しい問題では新たに厳しい局面に直面したと云えそうです。
さてA320と云えば、フライバイワイアの嚆矢として鮮烈なデビューを飾ったことが印象的です。操縦席の前に床から生えた大きな操縦桿は有りません.航空史上画期的な出来事でした。パイロットの足元スペースが格段に広がり・・・・と云うよりも片腕で軽く操作できるジョイスティックで何百トンもあるエアバスの機体を操ってしまうのですからオドロキです。
飛行機の舵は昔っから操縦桿とは機械的に連結されていました。自転車のブレーキも理屈は同じです。油圧機構に置き換わってからも、操縦桿の作動量が作動油の変化量に置き換えられただけで、自動車やバイクのブレーキと同様、レスポンスはダイレクトなものでした。
フライバイワイアという全く新しい伝達機構は電気とモーター、センサーが必要でそのどれもが健全に動くことが大前提です。言ってみればラジコンの飛行機を操縦する様なもので、空中を飛ぶ電波を電線ケーブルに置き換えたような伝達経路です。もちろんホンモノの飛行機を動かす舵ですから何重もの安全機構で守られていることは疑うまでも有りません。
さあ、そのフライバイワイアの画期的な旅客機A320のデモ・フライトの日が来ました。1988年6月のフランスです。エールフランスに納入されたばかりの最新鋭機エアバスA320、296便は滑走路に面した観客席の前を低空でローパス(低空飛行)して、滑走路スレスレの高度から一気に高度を上げて上昇能力を観客に見せつける・・・予定でした。
しかし高度は上がらないばかりか目の前には滑走路端の深い森が迫って来ます。背の高い木々に機体をこすりつける様にして、徐々に高度を失い深い森の中へと吸い込まれる様に消えてゆきました。2秒後、あるいは3秒もたってからでしょうか、森の一角から真っ黒い煙と轟音が発生しました.煙の中心いは赤い火の玉も見えるようです。乗っていたのは乗員二人だけ、デモフライトのために乗客はいなかったのが幸いでしたが、全員即死です。
この事故がフライバイワイアの信頼性にも大きく影を落とす結果になってしまったのは、疑い様もありません。そんな逆境デビューだったA320も今ではローカル線用機材として引っ張りだこ.高い信頼性を勝ち取るまでには四半世紀近い長い時間がかかっています。
自動車の世界でも、知らずのうちにバイ・ワイア化は進んでいます.もはやアクセルペダルはエンジンとは直接繋がっていません。ステップモーターがアクセルペダルの動きを真似して代わりにエンジンをコントロールしています。
まさかのステアリング操作も、バイワイア化が実現しています.昨年登場の国産車にはハンドルとタイアの向きが電気信号で繋がっているクルマ、スカイラインが注目を集めました。バッテリーが上がればお手上げか?と云うとそうでもささそうで、緊急時にはちゃんとハンドルとタイアが繋がる仕組みになっています。
デジタル化と並んでバイ/ワイアも高度なエレクトロニクス技術の産物のひとつですが、何しろ実績が有りません。永年安全に作動して初めて信頼性を勝ち取ることが出来る、安全で当たり前。でなければ珍技術で終わってしまうだけでなく事故に繋がる悪魔のデバイスともなりかねないのです。