2022年05月15日
彼岸花が咲く島
沖縄の施政権が返還されてからちょうど50年
1972年には米中関係正常化、日中国交回復もあった大きな政治の節目の年でした。佐藤栄作の長期政権が終わり、小学校卒の宰相、田中角栄が新しい日本のリーダーとして脚光を浴びます。
前年にデビューしていた沖縄出身のアイドル歌手、南沙織は羽田、那覇の往復にパスポートを携行しなければならない時代でした。お財布はドルと円の両方必要で、当時のレートは306円も出さないと1ドル札に替えてもらえませんでした。
そんな沖縄県下にある小さな島がもしもニッポンという国から独立したら?
南海の孤島を舞台に繰り広げられるファンタジックな物語が芥川賞受賞作、彼岸花の咲く島です。
年間を通じてあたたかい南国の島、日本より南にあって遥か先には台湾も。歩き通せば一日で島の東西を横断出来る位の小さな島の北部にある、彼岸花の咲き誇る砂浜に1人の少女が打ち上げられていました。
少女がどこからきたのか?名前は何か?何故ここに流れついたのか?全ての記憶は失われています。彼女を見つけたのは同じ年頃の島の少女=游娜(ヨナ)。でも、ちょっと言葉がちがうみたい・・・・・
母親と暮らす彼女の家に保護されて健康を取り戻すうち、この島の奇妙な風土、文化、歴史を知る事になる・・・・ここは日本ではない、元の日本人たちが暮らす島。そこには家族と言うシステムが無く、行政や立法を司るものは全てが女性.オトコは生殖行為に加わる他は手に職を持ってはいるが、これといった責任を負っていない・・・・・
やがて、島の少女たちが支配的な立場の成人たるノロに昇格するための試験が始まる。これに合格しなければ、すっかり健康を回復した少女はこれ以上島で暮らして行く事が出来ない。
作者は中華民国籍の李 琴峰(り・ことみ)さん、日本在住の小説家で翻訳者
第165回 芥川賞受賞の本作品はファンタジーテイストの不思議なシチュエーションで綴られる物語でありながら、しかし現代社会への鋭い風刺と批判に溢れていたりもするのですが、まるで南国の心地よい風の様に、やんわりと心を包み込んでもくれます。