2019年02月12日
ちいさな独裁者
ドイツ戦線でたった一人はぐれた19歳の上等兵、目の前には乗り捨てられたベンツ6輪トラックとスーツケースに折りたたまれた軍服、コート、それにブーツ一式。袖を通すとあったかい、だけではなくて何となく自分が偉くなったようでもあり気持ちよい。思わず大尉の口調を真似てみる・・・・・
映画「小さな独裁者」に描かれた『ヘロルト大尉』の仰天の「なりすまし」は嘘を嘘で上塗りしたばかりか次第に強大化、狂暴にすらなってゆく。やがて規律違反を重ねる頃には疑いの目もたびたび向けられるものの、そこは終戦間近のドイツ戦線のこと。
特権階層の軍服を着る、ということはその権威を纏う、だけでは済まされず人格さえも考え方も変えてしまう。向けられた銃口もそれが正義の方を向いているとなれば正しい行為にみなされる。
戦争の大義なんて所詮はきれいごとを並べただけの言い逃れで、結局は末端の兵卒、庶民が犠牲になることに変わりはない。
痛快とも言えるニセ大尉の躍進ぶりはどこかクレイジーキャッツ映画のC調路線すら連想する。皮肉を込めて人間の残虐性を描き出したユニークな作風はエンドロールでも如何なく発揮される。ドッキリカメラかと見紛うばかりのシーンの連続が、また腐肉たっぷりで微笑ましい。
実在した人物の本当にあった話だけに笑って見過ごせないエピソードではあるのだけれど、もしもこんな若者が不動産屋のスーツを着こなして大統領選挙を戦っていたらどうだろう?見方によっては様々な現代の事象を遠くからあざ笑っているようにも見えて、また可笑しみが増すのである。
恵比寿ガーデンシネマ他で上映中