2018年01月05日
奇跡への軌跡
結婚式を3月に控えた岡山の男性の携帯に婚約者の急変を知らせる電話が鳴ったは2007年の1月5日のこと。
『麻衣さんが心肺停止です』
卵巣腫瘍を攻撃する筈の抗体が何故か大脳を侵してしまう難病だった。彼女はこの後500日以上のあいだ目を覚まさなかった...一時は脳死判定、臓器移植も検討されながらも奇蹟的に目を覚ました彼女、しかし運動機能もこれまでの記憶も殆ど失われていた...
公開中の映画『8年越しの花嫁』は実際にあった岡山のカップルの実話がベースの実写作品、結末が分かっているだけに、どんな過程をたどったのか?どのようにクライマックスを盛り上げるかが重要、泣かせる映画だとは判っているからシナリオの良し悪しがものすごく問われます。
主役の土屋太鳳はウエディングドレス姿も魅力的な事は云うまでもありませんが、大半の登場シーンがスッピンな上にアップにも耐えなけれればならず、しかも回復途上にある病状の変化をシーン毎に微妙に演じ分けなければならないという難題を懸命にこなしているので、こちらもじっくり見ておきたい部分です。
主人公の佐藤健が抑制の効いた自然な演技で予想外に素晴らしい仕事をしているのも驚きですが、作品を彩る小道具たちにもちょっと注目です。
主人公のキャラクターを象徴する彼の愛車はよく手入れされたAE86(トヨタ・スプリンター)のトレノGT(1983~87)※それに2ストローク時代のヤマハヴィーノも大切な小道具です。彼女の愛車は女性にも人気の軽=ミラ・ジーノ、そして、極め付けは半世紀前のあの名車・・・トヨタ系車両オンパレードです。他にも岡山電鉄の各車両が頻繁に登場するほか駐車中の車の時代考証もちゃんと考えられている、日本映画では稀有な作品です。スマート・フォンが存在しなかった当時のデバイスが重要なカギを握っているのも見落とせない点の1つ、作品を盛り上げるための重要な仕掛けも盛り込まれています。
去年初冬にロケが行われた岡山県の美しい景色も大切な大道具で、重要な場面が撮影された浅口市の遥照山は神戸に負けないくらい夜景が美しく、瀬戸内の海が見渡せる絶好のデート・スポット。撮影に使われた大道具も現在そのまま設置されており、小豆島と合わせて晴天に恵まれた撮影はこの作品を美しく彩っています。
人気のコミック作品を実写化して人気俳優のスケジュールをブッキングしたらヒットしそうな作品の出来上がり!みたいな傾向とは全く無関係に、映画によくありがちなタイム・パラドクスもジェンダー交換といったトリックもない、しかし脚本家もとても思いつかないような、本当にあったドラマチックなストーリー・・・・客席は若い観客がほとんどでしたが、男子も少なからず混じっていたのは意外でした。少し離れた左右の席からは中盤以降、絶えず女性が鼻をすする音が聞こえていましたので、鑑賞前にはカゼを治しておきましょうね・・・ではなくて、涙腺の弱い人はハンカチ、ティッシュ必携の映画です。
と言っても、お涙頂戴みたいなタッチでは無く、実話を正確にトレースしながら素直に感動できる作りになっているところはさすが、岡田惠和の脚本です。
※AE86=1980年代に生産修了したあと、今も大切に乗り続けるオーナーが多く高値で取引されている稀有な中古車。原付バイクのヴィーノは今も販売されているヤマハのヒット商品。2ストローク車は10年以上も前に絶版となっていてこれまた熱烈なファンが大切に乗っているのをしばしば見かける。
主人公は自動車修理工の設定。愛情を持って接すれば直せない車はないと豪語するセリフも・・・劇中、佐藤健の髪形は本人に即したもの
※※同時期に上映の映画『彼女が目覚めるその日まで』も同じ病名の難病と闘ったNYの女性記者の実話ストーリー(理想の鑑賞法は「花嫁」のリハビリ過程の途中で劇場を抜け出し、「目覚める」を見てから後半部分を鑑賞すれば完璧???)