2016年05月19日
"Pacific 231" (1978) 富田勲
アルテュール・オネゲル (Arthur Honegger)作曲の"パシフィック231"は蒸気機関車の発進から快走、停止までをオーケストレーションで巧みに表現した名作ですが、これがシンセサイザー音楽のパイオニア=冨田勲の手に掛かると見事なまでのリアル描写に生まれ変わるから不思議です。大きなシリンダーに圧入される蒸気のプレッシャー音から動輪が回りだす様子,高速で飛び去る踏切音のドップラー効果などなど、実在の楽器では再現しきれない様なノイズも巧みに表現していって、音楽の域を超えた新しい芸術とでも呼びたくなるほどの作品。是非ステレオで迫力のサウンドを経験しておいて欲しい20世紀の歴史的名作です。
先頃亡くなられた冨田さんの当時の部屋には天井まである膨大な数のアンプ等、音響機器がビッシリ,それらをケーブルで縦横に接続してあるのですがその複雑さと云ったら喩えようがありません。今でこそおもちゃにもなっている「シンセ」ですが、冨田さんの時代はブラウン管に映し出されたサイン・カーブの単純な波形を複雑に変化させてゆき,思い通りの音質に近づけてゆくと云う文字通り手探りの試行錯誤の連続作業でした。思い通りにならないことの方が圧倒的に多く,そこから思いもよらない音色が生まれたりもします。
1981年には神戸ポートピア・サントリー館のテーマ音楽を担当,エンドレスで観客が移動した場所ごとにアレンジが変化してゆく手法はTDL;エレクトリカル・パレードのアレンジにも見られる手法でした。そして,1992年オープンのハウステンボスでは夜のイルミネーテッド,アトラクション『サウンドギャラクシー(音の銀河)』BGMにハウステンボス・マーチが毎晩流れていました。これ、結婚式の入場にもお薦めの曲です・・・・・
80年代後半には自分で波形を変化させて冨田ごっこが出来るMSX/キーボードのセットがありましたが、追い求める音が出せる様になるまで気が遠くなるほどの時間を費やしたものです。波形を見ながら、ああでもない、こうでもないを繰り返し、あるいは作ろうとしている音色の波形を想像して徐々に近づけてゆく・・・・・・根気と情熱と才能が無ければ絶対に完成しない仕事だと,このとき悟ったのはワタシだけではないでしょう・・・・