2011年09月20日

全力疾走する幽霊

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何とも皮肉な名前になってしまいました。
16日、アメリカ・ネバダ州のリノエアーレースで
墜落した事故機の機体ネームは「THE
GALLOPING GHOST」=全力疾走する幽霊
でした。

写真は事故発生直前の「THE GALLOPING
GHOST」で、現地で取材中の航空カメラマン
桜井健雄さんが撮影し、ご本人の了解を得て
掲載しています。

「空の日」に墜落事故の話をするのも気が
ひけますが、墜落したエアレーサーは
第二次世界大戦で世界最高の傑作機と
言われたノースアメリカンP-51ムスタングを
改造したものです。

参加していたレースは、アンリミテッドクラスと
呼ばれる機体の改造やエンジンのチューンアップに
制限がないもので、ほとんどの機体が3000馬力
クラスのモンスターマシーンを搭載し、最高時速は
700キロ以上に達します。

レースの性質上トラブルが多いのも事実で、47年の
レース史上、これまでにも空中分解や空中接触などで
数多くの事故が発生し多くのパイロットが死亡しています。

今回のように観客を巻き込んだ死傷事故が発生したのは
初めてで、事故後レースはただちに中止となりました。

これまでは、「この悲劇を乗り越えようではないか」、
「死亡したパイロットもレースの再開を望んでいるに違いない」
などとして競技を再開するケースが多かったようです。

今回、多数の観客が事故に巻き込まれたことで、来年以降の
レースがどうなるか注目されるところです。

事故原因は、現在、アメリカの運輸安全委員会が調査を進めて
いますが、これまでのところ、機体の尾翼部分の部品が破損
して事故につながったとの見方が有力となっています。

目撃者の話では、機体はいったん急上昇したあと機首を下げて、
垂直に近い状態で地上に激突したとの証言が寄せられています。

機体が急上昇した原因はなんなのか、通常、フィニッシュした後や
レースからリタイヤする場合、このような飛行を行うケースは
ありますが、レース中ではパイロンの高さギリギリに飛行するため
機体に何らかの異常が無いかぎりこのような飛行は行いません。

機体が上昇する際にパンという音が聴こえたとの証言もありますが
これが事実だとすると、機体に何らかの異常が発生し、機体の
コントロールが利かず墜落したのか、それともパイロットに何らかの
異変が生じたのか・・・・・

水平尾翼のエレベーターに付けられているトリムタブが破損し
脱落した可能性も視野に入れられています。

トリムタブは、ほとんどの飛行機の動翼に取り付けられている
小さな補助動翼で、機体の微妙な姿勢制御を行うためのもの
ですが、これが破損し脱落してもエレベーターのコントロールが
正常に働いていれば機体の上下方向の運動は確保される
はずです。

トリムタブの破損から周辺の部品にダメージが及び危機的な
状況に陥った可能性もあります。

パイロットが高齢であったことから、あるいはパイロット自身に
何らかの異常が発生した可能性も否定できません。
(もっともこの説はパイロットが観客席を避けようと必死で
機体をコントロールしようとしていたとする証言もあることから
除いてよさそうです)

いずれにしても、リノエアレースは日本でも関心が高く、人気の
航空イベントであることから、今後の事態の推移が注目される
ところです。

| 11:57 | コメント(4) | カテゴリー:田中穂蓄

コメント

10年前,このレースを取材中に同時テロのとばっちりを受け
リノに足止めされた友人の話を思い出します。
先日のANA機急降下もトリムタブの誤操作が原因のようでしたし、似たような事象が続くものですよね。(まだ仮説の段階ですが)
パイロットの年齢はさておき,機体も相当疲労が蓄積している筈なので,来年の開催は機体のより精密な点検・検査が前提となるのかもしれません。日本の車検制度をちょっとは見習って欲しいところです。

投稿者 吉田雅彦 : 2011年9月20日 12:23

田中さん、お疲れさまです。
今回、悲しい事故が起きてしまいましたね・・・
リノ・エアレース、47年の歴史との事、自分はちょうど1ヶ月後46歳、ほぼ自分の歴史、でもあるのですね。
Wikipediaでは、早速今回の事故も載っており驚きました・・・
拝見して、例えば今回のように、傑作機であるからこそ、安全にスピードを競い、新たな記録を樹立してもらいたいと考えます。

投稿者 ちなみん : 2011年9月20日 15:09

吉田さん、ありがとうございます。
アンリミテッドのレースにはプロペラ機では最速の第2次大戦中の戦闘機を改造したレーサーが主に使われますが、中でも世界中で200機近くも現存するノースアメリカンP-51Dムスタングが最も多く使用されています。
大戦中の戦闘機とはいえ、機体フレームの一部を残してそのほとんどは新造機と言っていいほどの改造が施されており、そのスタイルはわずかに原型機の面影を止めているに過ぎません。
時速700キロ以上のスピードで極限の運動能力を発揮させるためには、世界最高のメンテナンス技術が必要で
当然のことながら、リノエアレースには世界最高のメカニックが集結します。
それでも事故は避けられないという過酷なレースだけに
参加するにも観戦するにもある程度の覚悟が必要となります。
それが是か非かは別として、このレースはアメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のためのレースと言えると思います。

投稿者 ホヅミ : 2011年9月25日 08:37

ちなみんさん、ありがとうございます。
観客を動員するレースである以上、安全性への配慮は最も重要な要素であることは言うまでもありません。
来年以降のレース開催がどうなるか、主催者側の安全対策如何に関わってきます。
アメリカにはもう一つ、民間団体が主催するイベントとして世界最大のホームビルダーの集まりであるオシコシのフライインがあります。
アメリカ中から自らの手で組み立てた飛行機(ホームビルト機)を持ち寄り、仲間と語り合いながらのんびりと
飛行を楽しむというものです。
これもアメリカ人の楽しみの一つ、過酷なリノか、それともゆったりのんびりのオシコシか、アメリカ人の多面性がうかがえるイベントです。

投稿者 ホヅミ : 2011年9月25日 08:59

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