2017年11月02日
『EUREKA』(TIFF2017)
今や日本映画になくてはならない存在の宮崎あおいさんですが、その彼女が上映を強くプッシュしたのが1999撮影、3時間37分の長時間映画「ユリイカ」です。
九州北部のローカル線沿いにある小さな町を舞台に起きたバスジャック事件を発端に、偶然乗り合わせた乗客の兄妹と運転手、それから二年後の不思議な再会と共同生活・・・・・しかし、周辺で起きる奇妙な連続殺人事件・・・・・
サスペンスタッチのストーリーをちょっとセピアがかった白黒映像で静かに描写してゆきます。まだ14歳だった宮崎あおいの事実上の初主演作品、役所広司、松重豊らを相手に堂々の演技が見ものです。といっても、セリフはほとんどなし。表情としぐさだけで演技するという、ある意味難しいタスクを自然にこなしています。
もちろんまだ無名だった原石の彼女を1分足らずのオーディションで抜擢した青山真治監督の目には狂いはありませんでした。彼女の成長ぶり、魅力は言うまでもありません。
夏休みの数十日を真剣に仕事する大人たちと楽しく過ごせた、と振り返る宮崎は、まだ自分が日本を代表する女優になるとはこれっぽっちも思っていなかったと語っています。
上映後のトークショーにご本人も登場し、二人とも撮影当時を懐かしく振り返っていました。10代のころ、20代の頃と繰り返し見返したという彼女は今でも鮮烈に撮影当時を覚えているとか。オトナになって改めて観た今回も新鮮な発見があり、全く違う場所で泣いてしまったとか・・
デジタルシネマカメラのなかった時代、白黒フィルムで撮影された作品をデジタルリマスター処理でクリアに鑑賞できる技術も大したものですが、
後半、北九州の各地を巡るロードムービーの要素も合わせ持ち、監督の郷土愛もにじみ出る作品です。
作品の完成後、同じ西鉄バスを17歳の少年がバスジャックするという事件が実際に発生し、別の意味でも話題となったこの「ユリイカ」はカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞とエキュメニック賞(全キリスト教会賞)を受賞しています。
はたして犯人は判明するのか?失楽園以来、人気沸騰の役所広司が最後に見せるオトコの本当の優しさをぜひ感じ取ってもらいたい作品でした。