2016年10月26日
3巨匠の競演
今年もTIFF「東京国際映画祭」の季節がやってきました。今回はチケット売り場も特設されて前人気の高さを伺わせます。で、やっぱりアジア映画は興味の的。アジアの3巨匠による競作という『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』を鑑賞します。利き酒ならぬ利き演出を味わってみますか
2番目.行定勲監督の作品「鳩」はマレーシアが舞台、津川雅彦・永瀬正敏といったベテランに花凛なシャリファ・アマニ(写真左端)が華を添えます。介護ヘルパーに新規採用された誠実で、心優しいマレーシア女性ヤスミンを演じるシャリファがチャーミングで、好感が持てます。ペナン島の美しい海岸をはじめオールマレーシアロケで撮影された映画なのに、監督、主演とも日本人スタッフで固められたこの作品、ストーリー展開のテンポや構成、編集手法など見慣れた日本映画のリズムで楽しめるところが武器かもしれません。主演の津川さんが語ったようにクリント・イーストウッド監督作品のグラントリノのような異文化、異民族間の気持ちが結びつく、心温まる作品に仕上がっています。
3番目.カンボジアを舞台に加藤雅也が主演する「beyond the bridge」は文字通り実在するカンボジアの橋からスタートします。日本から来た社長=加藤に思いを寄せる女性は何とsotho kulikar監督自身(写真中央)世界も注目の女性監督、演技指導も出演衣装のまま、熱のこもった撮影現場だった様子です。若い頃の結ばれなかった想いを断ち切れない現在の「社長」。目の前にいる女性(監督)にもなぜか心を許せなかったのは戦火に引き裂かれた遠い思い出があるため?
ラブストーリーとも戦争映画とも区分できない様々なテーマが交錯します。劇中には戦闘を記録した映像もふんだんに織り込まれており、リアルタイムで戦禍を経験した世代しか、描くことのできないテーマ、表現だったのかもしれません。3本の映画に与えられた共通のテーマ、鳩=平和に絡めてもう一つの隠しテーマが織り込まれていたことも、あとから知らされて納得の作品でした。
1番目.フィリピンのB.メンドーサ監督による物語は北海道、十勝平野の雪景色からスタートします。ばんえい競馬で活躍する競走馬たちの迫力ある映像と細やかな描写、舞台はいきなり男の故郷、フィリピンに舞い戻ります。30年ぶりで帰郷してみると大災害の爪痕を目の当たりにし、厳しい現実が待ちかまえ・・・・・ラストシーンのワンショットとタイトルの「dead horse」を馬死にと読み替えてみれば真意が見えてくるかもしれません。フィリピンから日本へ働きに出掛けてくる労働者、彼らを取り囲む過酷な環境と待ち受ける運命とは?示唆に富んだ重いテーマをセリフや説明に頼らず、映像表現で切々と訴えかける・・・・・・・まさしく国際映画祭にふさわしい表現手法とも言えます。納得したうえでもう一度初めから見ると、きっとその心髄が分かるはず。奥深い作品です。
上映後は監督、主演キャストを交えてのトークセッションも開催され、作品に込められた思いや撮影後・上映時の感想など、リアルな現場を連想させるエピソードも盛りだくさんの、充実した上映となりました
チケットも多くが完売の大人気、でも心配には及びません。ヒルズアリーナでは無料青空スクリーンも上映中、ゴーストバスターズやフラッシュダンスといった懐かしの作品を含め、連日人気作品がラインナップされています。
映画を待つ間には熊本のダイナーで腹ごしらえ、普段東京ではお目にかかれない、特選メニューが勢ぞろいです。