2013年07月09日

アシアナ航空機事故(続き)

サンフランシスコ国際空港で起きたアシアナ航空機
の事故について、NTSB=アメリカ国家運輸安全
委員会は、事故機が着陸に失敗した際に目標速度
を2割以上も下回っていたことを明らかにしました。

着陸当時、ボーイング777を操縦していたのは慣熟
訓練中の副機長で、指導していた機長も教官役として
初めてのフライトだったことも分かりました。

着陸進入速度は機種によって違いはありますが、
777の場合は通常時速約250キロ前後となって
います。

ところが、事故機は時速約190キロ前後で進入しており、
胴体後部が滑走路の先端に接触する直前まで
パイロットは速度が大幅に遅くなっていることに気付いて
いなかったようです。

これがパイロットのエラーによるものか、機体のトラブル
によるものか、あるいは管制システムの不備によるもの
か(当時、滑走路の延長線上に設置されている航空機
の着陸進入経路を示すグライドパスと呼ばれる電波シス
テムは整備中のため運用されていなかった)などが、
今後の調査対象となりそうです。

もっともグライドパスは、視界不良で計器着陸方式の
場合には重要なシステムですが、今回のような視界が
良好な場合は補助的な役割とされており、電波が停止
されていた点については問題にされていないようです。

ところで、機体火災については一部に機内発火説が
あるようですが、ニュース映像や関係者の話などを
総合すると、機内に異常が発生していたとは考えにくく、
火災は、右側胴体のすぐ脇に脱落していた第2エンジン
から発火し、その熱が右側胴体の主翼前方付け根の
部分(ここには黒く焼け焦げた穴があいている)に伝わり
客室に延焼したと考えるのが妥当のようです。

脱出した乗客が撮影した事故直後の写真では煙が
胴体右側から上がっており、客室乗務員の証言もそれを
裏付けるような内容になっています。

また、胴体後部が地上への激突によって粉々に破壊
されたものの、垂直尾翼と左右の水平尾翼はほぼ原型
を留めたまま滑走路上に残っていた点については、
機体構造の材質の違いを挙げることが出来ると思います。

つまり、粉々に砕けた胴体後部は主にジュラルミンなど
の金属部品で作られていますが、尾翼部分はCFRPと
呼ばれるカーボンやボロンなどの複合材料で製造されて
います。
今回の事故で改めてこうした複合材料の強靭さを見せつけ
られた思いがします。

今回のニュース報道では、一部に明らかに事実誤認の
解説があり、スタジオの司会者やゲストもうなづくだけと
いった場面が見られました。
当然のことながら放送解説には正確さや慎重さが求められ
ることを肝に銘じたいと思います。


| 10:16 | コメント(5) | カテゴリー:田中穂蓄

コメント

胴体本体と尾翼の材質が異なっている話、興味深いですね。ということは、新しい787だと全体カーボンなので、もっと強度がある、もしかすると、後部をぶつけても折れなかった、ということになるのでしょうか?
ニュース番組を見ていると、枠が決められていて、情報がない中で何かしゃべらないといけない、というような場面がありますね。地震の時の初期の原発事故解説もそうでした。だから誤報が生まれやすい? 出し手はもう少し工夫できるのでは、と思います。

投稿者 ケロです。 : 2013年7月 9日 10:53

田中さん、お疲れさまです。
今回のニュース、自然と取り上げられるので、TV局でも数局(3局)で解説をお伺いしていますが、昨日・21時のニュースまで、このパイロットは777は43時間と時間は短いが、他機種では経験を積んでいる事でした。
OJTは、放送・販売始め自分も承知していますが、いくらオペレーションでも、技術全体の習熟時間が短く経験が浅い、となると、自分はとてもではありませんがこの機体に乗る事自体非常に恐怖です・・・
機長の教官役も初めて、は今回初耳ですが、繰り返し流されているいる「機長に全責任」は非常に疑問・過酷だと感じました。
1.5秒で態勢立て直し、はそう意図したのではなく、この段階に至るのにそこまでかかり、決定的に時間不足だった・・・訳ですね。

投稿者 ちなみん : 2013年7月 9日 13:02

田中さんこんにちは。今回の事故、残念ですね。ヒューマンエラーなのか他に機器的な要因があったのか解明が待たれるところです。しかしながら、777の操縦に未熟な副操縦士に指導経験が初めてに近い機長、多数の人命を預かりながら実地訓練を行っていたことは事実であります。機の侵入角度、侵入速度、事前にアラームは鳴らなかったのか?機長はこれでも着陸出来ると判断したのでしょうか?もっと早い段階で着陸のやり直しは出来たはずなのに…。
飛行機に限らず、いくつもの偶然が重なることで事故は起きるものだと思いますが、あってはならない、してはいけない事を行う事で起きる事故はそれ以上にあります。過失があったのか無かったのかも大切ですが、今後のエアライナー各社の更なる安全運航に繋げてもらえる事を望みます。

投稿者 tetzz : 2013年7月 9日 14:25

 ここ数日、アチコチのサイトで事故の情報をさぐっております。欧米の雑誌サイトではどうどうと当該パイロットとインストラクターの氏名をだしていますね。ま、氏名公表はともかく、気になったのは当該パイロットがこれまで乗務していた機体はA320だということです。それ以前は737と747の履歴でした。
 エアバスとボーイングの乗換と、短距離と長距離の乗換、という2つの懸念が浮かびます。後者は疲労度の話としまして、前者については、小牧でのチャイナエアラインのA300-600のオーパイが切れない話や、かつてロッキード「トライスター」のギア警告灯ランプをいじくている合間のオーパイ解除、という事例を思い出します。
 AWST誌のサイトだったかに、進入中に気流で機首が流れたので修正した、というのがありました。その際、オートスロットルはセットしたままだった、というのですがNTSBはエンジンはアイドルだったとのこと。NTSBの言い分だとオートスロットルは知らない間に解除されていた、ということになります。
 で、エンジンアイドルならパワーが足りず、迎え角が大きいままでの飛行になるはずなんですが、VFRなら通常より大きい機首上げでおかしいと思って当然です。一部の報道ではパイロットたちの英語があまりよく話せず、事情聴取も滞っているなんて情報もあります。これがホントなら英語が不自由なまま、限られたATCの語彙だけで飛んでたの?という疑惑もでてきちゃいます。
 一方でパイロットはオートスロットルのセットは解除していない、と言っているそうです。これに北米のパイロット組合が事実をもっと公表するように要求するニュースもありました。P&Wのデジタル制御(FADEC)にバグでもあるとスキャンダルなんですが、他にはそんな事例は知りませんし・・・(そういえばブラジル発のA330の巡航中の事故がありましたが)
 もうしばらくもめそうな感じですね。

投稿者 フクザワ : 2013年7月11日 20:26

みなさん、貴重なご意見ありがとうございます。
知り合いの元パイロットの話によると、教官は訓練生(今回の場合は副操縦士)のミスに気付いても本人が気付くまでギリギリの段階まで指示しないケースもあるとのことです。
今回の場合こうしたことがあったかどうかはまだ分かりませんが、なぜ事故直前まで速度の低下に気付かなかったのか注目すべきケースではあります。
もう一つ、今回の事故で注目されたのが脱出シュートが機内で展張したことです。
これについては、次回のブログで触れてみたいと思います。

投稿者 ホヅミ : 2013年7月14日 08:05

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