2008年08月24日
私のラジオデイズ43
前回のクラシック番組の続きをお話しましょう。
クラシック番組には、他のポップス番組などには
みられないあるお約束事があります。
そのお約束事というのは、決して音楽にかぶせて
ナレーションを入れない事、ナレーションと音楽の
間(ポーズ)を必ず二呼吸ほど空ける事、
曲名、演奏者名はゆっくり、はっきりと発音する事、
モーツアルトの作品の場合は、必ず作品の整理番号
であるK=ケッフェル名を入れる事、などなどです。
初めてクラシック番組の録音をした時、私のナレーションを
聴いたディレクターは、皮肉交じりにこう言いました。
「田中君、君の喋りは早いんだね~エ、それは
クラシックじゃないよ!」
私「・・・・・?」
喋りにもクラシックがあったとは知りませんでしたから、
無謀にもディレクターに質問しました。
私「あの・・・・、普通に読んでいるつもりなんですけど・・・・」
ディレクター「その普通がだめなの!もっともっとゆっくり
喋らないと・・・・・・」
もっとゆっくり喋れって・・・・・ど、どんだけ~エ!!!
と、言ったかどうかは定かではありませんが、
とにかく、想像以上にゆっくりと喋ることだけは確かなようだと
認識しました。
喋りのスピードは、人によってまちまちですが、普通は1分間に
300文字、早い人で350文字、最近は400文字で喋っても
普通に聞こえる人もいるようです。
ところが、クラシックの番組の世界では、1分間に200文字程度の
ゆっくりとした喋りが求められます。
これは普通の感覚ですと、あまりにもゆっくり過ぎて、
小さなお子さんに昔話を話して聴かせるほどのスピードです。
これをクラシック番組で要求されたのですから、
最初は正直、ついていけませんでした。
そこで取り入れたトレーニングは、NHKのFM放送を録音して
クラシック番組のアナウンサーの喋りを徹底的に真似する
ことでした。
誰でも最初はものまねから始まりますよネ!
学生時代のDJアルバイトで身につけた喋りのスピードは、
かなりの早口だったので最初は大変でしたが、
段々に慣れてくると、クラシック音楽との違和感がなくなり、
なんとか聴けるようになりました。
こうして、クラシック番組ではゆっくりとした喋り、
ポップスでは普通の喋りが出来るようになり、番組によって
ナレーションのスピードを変化させるという、当たり前の
ことが抵抗なく出来るようになりました。
この時に学んだ、「言葉は一言一言丁寧に発音することが、
アナウンスメントの基本である」ということが、
いかに大切なことであるか、いま実感しています。
「言葉を大切に」という言い方には、言葉の使い方を大切に
するという意味もありますが、もう一つ、言葉を丁寧に発音する
という意味合いも含まれていると思います。
日本語の持つ美しさを最大限に表現することが、
もっと自由に出来れば、世の中はもっと思いやりに満ちた
世界になっている。 と思いますが・・・・