2021年05月19日

二枚目、永遠に

時折シャンプーのCMに出てくるハンサムな時代劇大スターの二世タレント。その三兄弟の中でも、さほど人気が高いわけでも、演技力が評価されるでもなく・・・・・

そんな二枚目俳優の数ある一人だった田村正和さんがガラリとイメージを変えたのはTBSの人気ドラマ、「うちの子に限って」でした。子供たちに翻弄される教師の姿をコミカルに演じ、三枚目を演じてもカッコいいパパぶりはたちまちのうちに愛されるキャラとして定着します。

そんな三枚目をクールに演じた集大成ともいえるのが87年放映の「パパはニュースキャスター」でした。報道記者出身の人気キャスター「鏡竜太郎」は高級マンションに住む独身貴族。40歳、クラシック音楽を愛し、取材に奔走したわが身を振り返りつつ、事件・事故で毎日毎日何人もの人々が死んでゆく、あの人たちは本当に人生の喜びを味わって逝っただろうか?・・・・・ボ、ボ、ボクはね、そろそろ身を固めようと思うんだ。もし女の子が生まれたら名前は愛情の愛と書いて、メグミ。愛に恵まれますようにって・・・・・そう、日夜同じフレーズを繰り返し、若いオンナを口説いては翌朝忘れてしまうのが日課だった。

番組でコンビを組む女性キャスター(浅野温子)とは深い関係で、マンションにも行き来する仲である。そんな彼の元に、或る時三人の小学生が相次いで訪れる。三人とも名前は愛。首からは同じ形のペンダントを提げ、中には若き日の竜太郎の写真、そしてそれぞれの母親に宛てた一通の手紙もまったく同じ文面・・・・・

こうして3人の(隠し子かもしれない)多感な小学生児童たちと、秘密暴露に怯える人気ニュース・キャスターの七転八倒のコメディーが繰り広げられます。クールに二枚目のモテ男を演じているのに、立派にコメディ作品に仕上がっている・・・・演じようとした三枚目ではなくても、三の線が得意と見られていたのでしょうか。シリーズは幾度も再放送され、後年スペシャル編も制作されています。フランス語、果ては中国語でも例のフレーズで女性を口説くパターンは同じまま。番組のテーマソングを亡き本田美奈子が明るく歌い上げていたのも印象的でした。

そして、がらりとイメージを変えたニヒルな二枚目役に戻ったのがご存知、三谷幸喜脚本による古畑任三郎。はまり役ともいえるこの役柄が後々代名詞にまでなる大ヒット。物まねネタとしても重用されました。

華麗な芸暦に比べてプライベートは一切公言しない人でもありました。お嬢さんはごくフツーに就職し結婚されたそうですが、挙式に出席した人のほかは素顔を知る人も少なかったようです。

亡くなられたのは先月初め。一ヶ月以上も事実を伏せていたのも、おそらく故人の意思によるものと思われ、そのニヒルな終焉の完璧さも、やっぱりなあと思わせる見事さでした。心不全と伝えられますが、表に出ていなかったこの二年間が闘病生活だったのかどうかをも知らしめることなく、カッコいい思い出だけを人々の心に残していった名優。父親譲りの銀幕のスターという言葉が今でも通用するならば文句無く田村正和は銀幕の、いやブラウン管のトップ・スターでした。

どうか安らかに・・・・

| 11:46 | コメント(0) | カテゴリー:吉田雅彦

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