2021年05月24日

社長命令?

富士スピードウェイ始まって以来ともいわれる報道陣が殺到した24時間の耐久レース。
それはルマンドライバー小林可夢偉の一言が始まりだった・・・・

去年11月、水素で走るカローラのテストカーに試乗した小林が、これはレースに出すべきだ、と感想を漏らした。この話が豊田社長の耳に届き、ならば耐久レースそれも半年後に迫った24時間レースへの参戦が決まった、というわけ。

水素カローラの印象は?

迷彩塗装のような派手なカラーリングを別にすれば、街中のカローラと大きく変わるところは無い。違うのはガソリン・タンクを持たないこと。リア・シート(のあった場所)に大きな水素タンク四本を縛りつけているところくらい。

エンジンは人気のヤリス用、3気筒ターボエンジン。元町工場では絶賛量産中だ。水素をためる高圧タンクはMIRAIと同サイズのもの。既存に無いパーツを探せばタンクからシリンダーまで水素を運び、噴射する燃料系だけといってもいい。

見どころ、性能は?

タイム的にはヤリスに及ばないものの、ディーゼルで走るデミオとはいい勝負。参加者中唯一ベストラップで2分00秒を切れなかったのが、この二者だけ。しかし軽油の給油はガソリンと同等、これが水素の気体を充填するとなると、大型のトレーラーをピット裏に待機させなければならない、高圧ガス管理者の資格保持者も必要だ。

給水素時間を短縮するために、内圧があがってきたら、二台目のトレーラーに接続、いずれも3分近い時間を要して70メガパスカルの水素タンク4本を満タンにする。その前にはピットごとに入念なチェック、調整も必須だ。

航続距離は富士のコースで13周から15周、30分も走ればピットイン、はレースにおいては大きなハンデだが、今回の目的は耐久性の照明だ。なんとしても完走はさせなければならない。私的なチームとはいえ、社長命令に等しいタスクだ。

コース脇に届くエクゾースト・ノートはヤリス同様3気筒ターボの音、ちょっと弄ったチューニングカー?といった程度でコース上ではウルサクナイクルマの一群に入る。もちろん排気ガスは水蒸気だけ。スタートする瞬間にテールパイプからモワっと水蒸気をたなびかせたのが唯一目視できた排出物だった。

水素カーのレース参戦の意味は?

在来のガソリンエンジン開発の歴史に巧妙を見出すとともに、ゼロエミッション、カーボンニュートラルを実現する魔法の杖を現実のものにするための重要な試金石、アピールの場だ。トヨタほど大量のガソリン・ディーゼルエンジン車を量産するメーカーとして、2030年以降の経営にもかかわる重要な問題でもある。ここでガソリン車並のタイムを出して見せ、24時間壊れない耐久性を実証しないことには、望む水素社会のためのインフラ整備はおぼつかない。

水素インフラが普及して初めて実現する水素カーはモータースポーツの世界においても光明を見出せるきっかけとなる。サーキットから聞こえてくる個性豊かなエンジン音はEVでは消してまねできない魅力だ。化石燃料時代と同じサウンドをとどろかせてくれるカーボンニュートラル、レーシングカーの出現はモータースポーツの未来においても福音となるはず。

社長がレース参戦する意義は?

これはトヨタの社内プロジェクトではなく、あくまでもモリゾウことクルマ好きのCEOが(おそらく)勤務時間外の活動として(無償で)自社製品をドライブしているに過ぎない。しかし、両肩には水素社会実現のための広告塔という大きなウエイトがのしかかっている。絶対に完走させなければイメージダウンになってしまいかねない。ドライバーには小林可夢偉はじめ一流どころを集められるのも、人徳ゆえか?社長命令や業務改善・推進だけではここまでは望めたか?

チーム内で一番航続距離が長かった(燃費がよかった)のは実は豊田社長。耐久レースにはもってこいの人選でもある

レース、結果は?

実走行時間はおおよそ12時間。一時間に1回以上の水素充填、チェックを繰り返し、時には電装系のトラブル解決に4時間を要する場面もあった。とはいえ、24時間後のチェッカーを、僚友のGRスープラと、二台並んで受けたところなどは、遠く50数年前のトヨタ2000GT、スポーツ800のデイトナフィニッシュを思い起こすシーンだった。
このあとも大分オートポリスほか、スーパー耐久耐久ラウンドには連続出場を目論んでいる。耐久性は照明できた。あとは速さと実用性をどこまでビルドアップできるのか?

水素社会はまだまだ始まったばかりだが、大きな歴史の一ページが開かれたところでもある。

| 13:13 | コメント(0) | カテゴリー:吉田雅彦

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