2021年01月28日
留萌本線で何が
小説「留萌本線最後の事件」(山本功次)、は文字通り留萌(るもい)本線を舞台とした列車ハイジャック事件を描いた作品です。
舞台の留萌本線は近い将来、区間廃止が検討されているJR北海道の路線、で存続を求める声は小説に書くまでも無く各方面から上がっています。それが事件の動機に繋がる?
物語は深川駅を朝早くに出発した一両編成のディーゼルカー、キハ54系の乗客からスタートします。大半は廃線を惜しむ鉄道マニアたち、でも中にはちょっと毛色の違う乗客も混ざっていました。ある男はサングラスをかけ大きなショルダーバッグを床に置いて・・・・・
事件は乗客を人質にとり、法外な身代金だけでなく、意外な要求を突きつけます。犯人の真意、目的は何なのか?乗客はどうやって救出できる?
単に乗っ取り事件の顛末を追っただけではありません。事件のあと、突きつけられた要求がどのように受け入れられるのか?そして、意外な人物がやり玉に挙げられて・・・・・
鉄道マニアならウンウン唸るカラクリがちりばめられており、内情に詳しい者の犯行...と察しが付くかもしれませんが、物語は留萌線の廃止を巡るある公共事業にも深くメスを入れ、色々と社会問題にも切り込んでいきます。
人質乗客が投稿したSNSが波紋をひろげ、ネット社会の在り方にも一石を投じており、これから起こるかもしれない新種の誘拐事件の解決を難しくするかもしれないヒントが隠されています。
それはそうと、ここまで巧妙な手口と計画、ひょっとして作者がプランニングしたら完全犯罪も実現可能なのでは?と思ってしまうほど見事なやり口には唖然としてしまいます。
そして北海道に土地勘のある人、現地を旅した人なら思い出や郷愁に浸ることもできる・・・・・多角的に楽しめた作品です。